来年度で設立20周年を迎える「日本価値創造ERM学会」の第20回研究発表大会が、9月3日(木)に我らが東京理科大学の神楽坂キャンパスを会場として開催されました。今回、私たち東京理科大学新聞会は取材陣としてだけでなく、微力ながら現場の運営スタッフとしても参加させていただきました。
社会の第一線で活躍する研究者やビジネスパーソンの皆様が、普段私たちが通い慣れたキャンパスに集結し、熱心に議論を交わす姿を運営側として間近で見ることは、非常に刺激的な体験でした。「経営学や社会科学は、理系の自分たちには縁遠い世界では?」と思うかもしれません。しかし、実はそこには、我々が将来社会に出た際に直面する「データと現実のギャップ」を埋める重要なヒントが隠されていました。
今回は大会の実行委員長であり、野村證券の金融工学研究センター長を務める太田洋子氏に、理科大新聞が独占インタビューを敢行。「現場のリアル」と「学会の歴史」について伺った前編をお届けします。
太田 洋子(おおた ようこ)氏
日本価値創造ERM学会 第20回大会 実行委員長 / 同学会 理事
野村證券株式会社 金融工学研究センター長
<略歴>
慶應義塾大学経済学部において、産業連関表を用いた経済波及効果のシミュレーション等に取り組む。卒業後の1990年、野村総合研究所に女性総合職第1号として入社。学会設立直前の2007年3月には、野村證券の金融経済研究所主任研究員として「ERM経営シンポジウム」に登壇。現在は、金融工学研究センター長としての研究活動に加え、事業会社に対する企業価値向上に向けたコンサルティング実務を手がけている。
設立趣旨とシンポジウムから読み解く「無形資産」と「ERM」の歴史
本学会は2007年5月に設立されました。太田氏に見せていただいた当時の設立趣旨の資料には、企業経営をめぐる考え方が大きく進化していることが記されていました。価値の発生源が「バランスシート(BS)上の資産」から、「人的資産などの無形資産」へと移行しているという指摘です。
さらに興味深いのは、学会設立直前の2007年3月9日に丸ビルホールで開催された「ERM経営シンポジウム2007」(京都大学経済研究所主催)の案内状です。この資料には「先端的な日本企業のケースと方法論」という国内事例研究の枠組みに、東京ガスや住友商事の担当者と並び、当時主任研究員であった太田氏の名前が記されていました。企業リスク管理に関する最前線で議論が活発に交わされたことから、本学会が設立された重要性がわかります。
「当時は『ここではこうであろう』という仮説だったかもしれませんが、20年経った今、無形資産の価値は実際に世の中で実証されてきています」と太田氏は語ります。
理論にとどまらない「実践」の場
この学会の大きな特徴は、学術的な「理論」にとどまらず「実践」を重視している点にあります。
会員は大学の研究者だけでなく、企業の経営企画、リスクマネジメント、ITなどを担う実務家、そして投資家によって構成されています。米国で評価されている経営プロセスの枠組みなどをガイドラインとしつつも、日本企業に古くから根付く「三方良し(投資家・顧客・従業員への貢献)」の哲学を大切にしながら、多様なプロフェッショナルたちが同じプラットフォームで議論を深めてきた歴史があるそうです。現場の運営に携わっていても、その熱気はひしひしと伝わってきました。
方程式のない世界。データよりも重要な「ストーリー」とは
太田氏は現在、研究活動と並行してコンサルティング実務にも携わっています。理論と実務の両方を見ている太田氏の言葉で特に胸に刺さったのは、データに対する向き合い方でした。
私たち自然科学の分野では、実験データや統計的な有意性が「1つの正解」を導く強力な根拠となります。しかし、ビジネスの現場はそれだけでは動かないと太田氏は指摘します。
「数学的にデータを使って分析しても、結局その裏側に『価値創造のストーリー』がないと結果は活きてきません。定量的な結果で統計的有意性が出ました、と高らかに言うだけではやはりまずいのです」
本当に企業の価値創造プロセスに組み込まれているのか、その根底にあるストーリーこそが重要であるという言葉は、日頃データ至上主義になりがちで、方程式の答えを求めようとする理系学生の私にとって、社会の複雑さと面白さを突きつけられた瞬間でした。
(後編へ続く)
日本価値創造ERM学会:https://javcerm.jp/


