夏が徐々に過ぎ去り、秋らしくなってきたがいかがお過ごしだろうか。朝晩は特に冷えはじめ、たんすから長袖を引っ張り出してきたという人も多いだろう。
さて、今年もいよいよ「読書の秋」がやってきた。普段本を読まない人の中にも、この時期だけは読んでみるという人もいるかもしれない。そこで筆者が今回紹介するのは、香月日輪さんの「妖怪アパートの幽雅な日常」という作品である。なお、妖怪や幽霊が出るとはいえ、ホラー要素はあまりなく、青春やファンタジー要素が強く、読みやすい作品となっている。そのため、ホラーの類が苦手な方でも安心して読むことができる。
あらすじ
主人公の稲葉夕士は学生寮付きの高校に進学したのだが、入寮予定だった学生寮が火事で全焼してしまう。行き場を失ってしまった夕士は不動産屋で格安のアパート「寿荘」を紹介される。夕士がそのアパートに入居するとすぐに、家賃の格安さの理由が判明する。なんとそのアパートは人間だけでなく、さまざまな妖怪や幽霊が暮らす「妖怪アパート」だった。
最初はその異形の住人に対して困惑していた夕士だったが、彼らと交流をしていくうちに、居心地の良さを感じるようになる。
本作を読んで
この作品は筆者が小学生の頃にはまっていたもののひとつであり、世間的にも高い人気を誇っている。この作品の魅力は、人間である夕士の不思議で幽雅な青春物語にあると言える。例えば、高校生ならではの悩みやイベントで起こるハプニングに直面したとき。時には妖怪や幽霊からの深い助言に救われ、時には摩訶不思議な力で強引に解決する。小説を読んでいる私たちもそれらに触れることで感銘を受けたり、清々しい気持ちになったりする。夕士を通じて読者自身も非日常的な体験をしたような気分になることができ、読み終わった頃には大きな満足感を得られているはずだ。
本作の魅力はもうひとつある。それはアパートの食堂で提供される賄いである。料理を作っているのは、るり子さんという方で、手首だけの幽霊だ。彼女が作る料理はどれも絶品で、アパートの住人のみならず、夕士のクラスメイトからも絶賛されるほどである(なお、クラスメイトは彼女が幽霊であるということは知らない)。その料理自身の描写や夕士による食レポを読むと、読者も食べてみたいと思わざるを得ないほど、おいしそうに描かれているのである。さらに、アパートの住人は「料理が美味しい」とるり子さんによく伝えるのだが、そうするといつも彼女は恥ずかしそうに指をもじもじするのがまた可愛らしい。アパートの食堂にまつわる一連の流れは筆者のお気に入りの描写だ。この小説を読む際はぜひここにも注目していただきたい。
終わりに
本作品は全十一巻あるが、どれもかなり読みやすいため、普段あまり本を読まない人にもおすすめだ。また、アニメ化やコミカライズもされているため、興味があればそちらもぜひ見ていただきたい。
「読書の秋」と言われるこの時期、温かいお茶をすすりながら人間と妖怪が織りなす青春物語に浸ってみてはいかがだろうか。
※本コラムは2022年7月25日に発行された「東京理科大学新聞 477号」にて掲載されたものを一部加筆・修正して公開しております。こちらもぜひ読んでみてください!
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