銭廣十三さんインタビュー 2018/05/22
職業としての研究者
今回は、理研の仁科加速器科学研究センターに所属している研究者の銭廣十三(ぜにひろ じゅうぞう)さんに取材を行なった。銭廣氏は原子核物理を専門にしており、仁科加速器科学研究センターのスピン・アイソスピン研究室の研究員である。
なぜその道を選んだのか
学問の中で物理を選んだ銭廣さんだが、物理である必要性は無かったという。「面白そうならなんでもよかった」「適正よりもそれにどれだけ没頭できるかが大事」と言っていた。子供の頃から理科は好きだった銭廣さんは、高校で理系に進んだのち京都大学に入学し、自身がやりたいことを考え、一番良い環境だと思った場所が理研だったという。「自分が今、理研にいるのはたまたまだし、運が良かった」と銭廣さんは言った。理研には紆余曲折せず、自分自身の好きな事、やりたい事を続けてきた人が多いとも教えてくれた。
銭廣さんと研究
銭廣さんは、研究が社会に役立てるかどうかは特段意識していないという。「そもそも、役つに立つは自明じゃない。研究に関して複数の観点から、考えると破綻する」と言っていた。また、基礎研究を行う事の意義は、社会の基盤の安定性につながると教えてくれた。我々が今の生活水準で生活したいなら、基礎科学は必要不可欠なのだという。「研究は順調ですか?」という問いに対して、銭廣さんは「研究はそれなりに順調だがハードルの方が高く感じる。常に困難。分からなくて困ることばかり。それを探っていく日々」と答えてくれた。
研究者の日常
研究者の日常はonとoffの境目がないという。常に研究の日々だそうだ。実験の進捗次第では、夜中まで施設に残ることもあるという。理研の加速器が動いている期間は決まっており、一年の中で4月〜6月、10月〜12月の計5ヶ月間は実験尽くめで忙しいようだ。一つの実験で、一週間くらいかかるという。実験が終われば、データの解析を行う日々で、それが平凡な日常らしい。研究者は家庭からなかなか理解を得られない職業と言っていたが、銭廣さんの奥様も他分野の研究者で、「理解はある方だけどね」と笑っていた。
銭廣さんの宝物
学生の重要性について銭廣さんは熱弁していた。学生がいる事で議論が活性化されるという。銭廣さんがどこまで理解してるか知るには、自身の中でいろいろ考えるよりも考えを伝える相手が必要だと言っていた。その相手に最適なのは、学生なのだという。最後に「学生自身にも、思想をつくってほしい。個々の強さが基礎研究を支えている」と銭廣氏は締めくくった。